総務省が公表した「 モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」とは
2020年10月27日、総務省は「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を公表しました。菅内閣の肝いり政策ともいえる「携帯電話料金の引き下げ」にも直結する内容だけに、多くの注目が集まっています。果たして本当に携帯電話料金は安くなるのか、今回の記事ではアクションプランの内容を分かりやすく解説するとともに、特に重要なポイントをピックアップして紹介します。
「新型iPhoneを購入する前に、本当に安くなるのか検討してから決めたい」と考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」の概要
まずは今回総務省から発表された「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」の概要について紹介しましょう。本アクションプランでは、大きく3つの項目に分類されており、これをもとにさまざまな政策を実行し、携帯電話事業者は具体的な料金プランなどを検討することになります。
分かりやすく納得感のある料金・サービスの実現
現在、iPhoneなどの本体端末料金と通信料金は完全に分離して契約をすることが法律によって定められています。この原則を徹底するよう覆面調査などを実施するほか、ユーザーに誤解を与えるような販売方法や表記を是正するなどの対策を実行するとしています。
また、注目すべきポイントとしては「中古端末を含めた端末流通市場の活性化」という項目があります。SIMロック解除を促進するとともに、携帯電話端末を購入しやすくするために多様な流通方法が検討されることになるでしょう。
事業者間の公正な競争の促進
大手通信事業者(MNO)と、格安スマホとよばれるMVNOの事業者間での競争環境を整備し、ユーザーの利用料に反映させる狙いがあります。具体的にはデータ接続料を向こう3年間にわたって5割削減することを目標とするほか、MNO間でのインフラシェアリング(基地局を複数事業者で運営する)や周波数の有効的な割当も検討していくとのことです。
事業者間の乗換えの円滑化
乗り換えを促進するため、すでに料金プランの違約金は1,000円以内とするルールが適用されています。しかし、ユーザーがプラン変更しない限り旧契約をもとにした高額な違約金が発生する可能性があるため、必要に応じて事業者に改正を求めていくとしています。
また、MNPの際には手数料を原則無料とするほか、キャリア独自のメールアドレスも移行できるように検討を行います。
アクションプランの中で注目される取り組み内容
アクションプランの基本的な方針が分かったところで、もう少し具体的な取り組み内容について見ていきましょう。今回は特に注目される5つのポイントを詳しく解説します。
料金解説ポータルサイトの開設
今回公表されたアクションプランのなかで、大きな目玉となったのが「料金解説ポータルサイト」の開設です。そもそも携帯電話の事業者ごとに料金プランを比較検討できるようなサイトは数多くありますが、より公平性を担保する意味でも総務省が主体となって専用のポータルサイトを構築します。
このサイトでは単なる料金の比較だけではなく、乗り換え手続きの詳細やユーザーのニーズに合ったプランの選択などを支援する目的があります。携帯電話は持っているものの、自分がどの料金プランとオプションサービスに加入しているのか把握できていない方も少なくありません。
そのような方でも、ポータルサイト上で携帯電話の使い方を診断することで、ニーズに合ったプランが選択できるようになります。
インフラシェアリング
通常、携帯電話の基地局は1社ごとに専用の設備を構築しインフラを整備していきます。そのため、たとえば「ドコモはつながるのにソフトバンクはつながらない」またはその反対のケースもあり、事業者によってサービスエリアは異なります。
インフラの整備は事業者にとってもっともコストのかかる部分であり、ユーザーの料金を安く抑えるためには複数の事業者が基地局を共用する「インフラシェアリング」が注目されています。
総務省では2018年12月に「移動通信分野におけるインフラシェアリングに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」をまとめ、インフラシェアリングを実施できるような環境整備を促進しています。
MNPが促進される環境の整備
MNPという制度はあるにもかかわらず、これまでユーザーの乗り換えが進まなかった理由として、手続きの煩雑さや高額な違約金の問題があります。
まず、MNPの手続きでは、電話やWeb上から転出元の「MNP予約番号」を取得し、その後移転先の事業者にMNP予約番号を伝えて新規契約を行う必要があります。
しかし、今回公表されたアクションプランの中では、現在のツーストップ方式からワンストップでMNPが可能になるよう検討するとしています。また、すでに解約手数料は1,000円以内とするルールに改正されていますが、旧料金形態で契約しているユーザーに対し周知を行い、MNPが手軽に可能となるよう働きかけていきます。
キャリアメールの持ち運び制度
現在のMNPでは電話番号の移行はできるものの、キャリアが提供しているメールサービスは対応しておらず、メールアドレスは変更となってしまいます。しかし、移転元のメールアドレスに届いたメールが移転先のメールアドレス宛に転送できるような仕組みも検討しているとのことです。
ただし、現在多くのスマートフォンユーザーは、チャットアプリやフリーメールアドレスを使用しているケースが圧倒的に多く、キャリアメールの持ち運び制度自体の有効性を疑問視する声も上がっています。
eSIMの利用促進
物理的に抜き差しして使用する従来のSIMカードではなく、デバイスにあらかじめ組み込んでおく「eSIM」の利用を促進することもアクションプランに採用されました。携帯電話を買い替えたり、MNPで他社に移ったりした際にわざわざSIMカードを抜き差しする必要がなく、スムーズに他社への乗り換えが可能になります。
MVNOの中にはeSIMに対応した事業者が増えてきていますが、大手通信事業者は対応しておらず、今後通信事業者間の競争環境を整備するうえでもeSIMは重要なキーワードとなりそうです。
iPhoneは本当に安くなる?
今回発表された総務省のガイドラインでは、明確に料金プランを○割下げる、といった具体的な方針は定められておらず、あくまでも健全な競争環境を整備することが中心となって構成されています。
しかし、私たちユーザーにとってもっとも関心の高いのは、最終的にiPhoneの料金が何割安くなり、月額どの程度の料金で利用できるのかということです。KDDIやソフトバンクのサブブランドでは、ミドルユーザー層に向けた新たな料金プランが発表されましたが、本命であるメインブランドの料金形態も今後改定される可能性も十分考えられます。