iPhoneの心臓部であるチップの歴史
日本国内では2008年から販売が始まったiPhoneシリーズも、すでに10年以上の歴史を誇りさまざまな進化を遂げてきました。
PCよりも身近な存在である以上、iPhoneのデザインやカメラの性能など、機能的な部分に注目されがちですが、実はiPhoneの心臓部ともいえるチップ(CPU)もさまざまな歴史を辿ってきています。
チップという存在は普段は目に見えず、派手な機能を有しているものではないため地味な存在として捉えている人も少なくありませんが、実はiPhoneに搭載されてきた新機能とも密接な関わりがあるのです。そこで今回は、iPhoneのチップの歴史について詳しく解説していきます。
目次
サムスン製チップから始まったiPhoneの歴史
2008年7月11日に日本で発売されたiPhone3Gには「Samsung S5L8900」というチップが搭載されていました。その名の通りサムスン製のチップであり、これはiPod touchや初代iPhoneに搭載されていたCPUと同じもの。クロック数は412HHzで、メモリはわずか128MBというスペックでした。当時はAppStoreで公開されているアプリも少なく、さらにはiOSの機能も限定的であったためiPhone本体のストレージ容量も8GB/16GBの2種類に限られていました。
その翌年、後継機種として発売されたiPhone3GSには「Samsung S5PC100」というチップが搭載され、クロック数は600MHzへアップ。メモリ容量も倍の256MBにアップしたことで、スマートフォンとしての処理性能は飛躍的に向上したのです。また、このモデルからビデオ撮影や音声コントロールにも対応するようになり、機能も徐々に洗練されたものになっていきます。
iPhone3GSを発表したWWDC2009の場でAppleは、アプリケーションの起動時間がiPhone3Gの半分になったことを公表しており、わずか1年という短期間でチップの性能が飛躍的に向上されていることが分かります。
Apple製新型チップの搭載
iPhone3GやiPhone3GSが発売された2000年代後半は、まだまだフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)の全盛期であり、「日本国内でiPhoneは売れない」とまで公言する専門家もいるほどでした。たしかに当時、iPhoneシリーズを手に取って購入するユーザーはアーリーアダプター(新しいもの好きな人)が多かった印象があります。
しかし2010年代に入ると、徐々にその風向きが変わってきます。iPhone4はそのような新時代を象徴するような1台になったといえるでしょう。先代のiPhone3GSまで採用されていた丸みを帯びたデザインを一新し、直線的でスタイリッシュな雰囲気に変化。本体も薄くなり、手に持ちやすく操作がしやすいサイズ感となりました。
また、これまで採用してきたサムスン製のチップからAppleが設計・開発した「Apple A4」とよばれるチップを新たに搭載。クロック数は800MHz、メモリは512MBを搭載し、従来のモデルよりも大幅な性能向上を実現すると同時に、消費電力の効率化によってバッテリー駆動時間も長くなりました。
Apple A4チップはシングルコアのCPUで、実はiPhone4に搭載される以前に初代iPadにも採用されていたという経緯があります。CPUの基本的な構造としてはサムスン製の「Hummingbird」とよばれるコアがベースになっていると考えられています。
iPhone4が発売された1年後に登場したiPhone4sは、先代のApple社長スティーブ・ジョブズが最後に発表した名機として今も語り継がれていますが、チップもこのタイミングでシングルコアのCPUからデュアルコアCPU(Apple A5)へと進化を遂げることになりました。
その後、iPhone5に搭載された「Apple A6」からiPhone6sの「Apple A9」まで、デュアルコアCPUが引き続き搭載されていきます。iPhoneの長い歴史のなかでも、クロック数デュアルコアCPUが採用された時期は長く続いてきたことが分かります。
iPhone7に搭載されたFusionチップ
2016年に発売されたiPhone7は現在となっては当たり前の機能となった耐水、防塵の機能が初めて搭載されたほか、FeliCaの搭載によって交通系ICカードなども登録できるようになりました。デザインやスタイリング自体はほとんどiPhone6sから変わっていないように見えますが、細かい部分を観察してみるとイヤホンジャックが廃止されているなどの違いが見られます。その他の仕様の違いとしては、ストレージ容量に初めて256GBが採用されるなどさまざまなアップデートが加えられています。
そして気になるチップですが、それまで搭載されていたデュアルコアCPUから、2コア+2コアのクアッドコアCPUへと進化し、メモリも2GBへ拡張されています。「Apple A10 Fusion」と名付けられたこのチップは、クロック数2.33GHzで先代のApple A9と比較した場合に最大2倍ものパフォーマンスの差があります。
また、この時代になるとスマートフォンはすでに多くのユーザーが所有するほど一般化しており、動画やゲームなどを楽しむツールとしても利用されていました。そのため、Apple A10 Fusionではグラフィック性能も大幅に向上しています。
ちなみにA10 Fusionチップのクアッドコアは高性能コア(2コア)+高効率コア(2コア)で構成されているのですが、高効率コアのほうが消費電力が小さい特性があり、高性能コアと比較したときに5分の1という省電力を達成しています。
そのため、あまり大きな負荷がかからない処理は高性能コアの2コアを中心で動作させ、ゲームや高解像度のグラフィックを表示させる動画再生、バックグラウンドでのアプリ起動などは高効率コアもフル活用することで長時間のバッテリー駆動を実現しています。
なお、Apple A10 Fusionが搭載されたiPhoneシリーズはiPhone7のみとなっています。
ニューラルエンジン搭載チップの登場
2017年に登場したiPhone8はワイヤレス給電(Qi)へ対応したほか、「Apple A11 Bionic」とよばれる新たなチップが搭載されました。先代にあたるApple A10 Fusionは2コア+2コアのクアッドコアでしたが、2つの高性能コアと4つの高効率コアを搭載したことによってさらに処理速度が向上。
また、今回のチップから新たに「ニューラルエンジン」に対応したチップへと生まれ変わり、これまでにないさまざまな先進的な機能も実現できるようになりました。
このニューラルエンジンとはAI(人工知能)にも採用されているニューラルネットワークの技術を応用したテクノロジーで、iPhoneのハードウェアとして画像認識や音声認識などを可能にするために欠かせないものです。
Apple A11 BionicはiPhone8と同時に発売されたiPhone Xにも搭載されましたが、Face IDやアニ文字といった先進的な機能はこのチップなくして実現できなかったものといえるでしょう。
その後、2018年に発売されたiPhone XSやiPhone XRには「Apple A12 Bionic」が、2019年に発売されたiPhone11シリーズには「Apple A13 Bionic」が採用され、今後のiPhoneシリーズにもニューラルエンジンに対応したBionicチップが欠かせないものになっていくと考えられます。
チップの進化とともにあったiPhone
iPhoneに限らず、PCやタブレットなどもCPUは心臓部でありデバイスの性能を決定付ける大きな要素といえます。
実際にiPhone3Gの登場から10年以上が経過した現在も、毎年のようにチップの基本性能は進化し続けています。スマートフォンでできることが多くなればなるほどCPUに求められるスペックも高くなり、今後もその流れは続いていくでしょう。
一方で、これからiPhoneの購入を検討している人のなかには、必ずしも最新の端末や最上位機種である必要はないことも多いはずです。
最新機種と1世代前の機種ではどの程度の性能の差があるのか、今後は搭載されているチップの詳細についても参考にしてみると選びやすいかもしれません。