iPhoneが採用している「サンドボックス」とは?基本的な仕組みや重要な理由を解説
iPhoneには最先端のセキュリティ対策が施されており、PCのようにセキュリティ対策ソフトをインストールしなくても安全に利用できます。
これを実現している仕組みのひとつに、「サンドボックス」という技術があります。iPhoneに限らずさまざまなハードウェアに採用されることの多いサンドボックスですが、どういった仕組みのものなのでしょうか。
本記事では、初心者や一般ユーザーにも理解できるように、サンドボックスの基本的な仕組みを解説するとともに、なぜiPhoneにとってサンドボックスは重要なのか、その理由についても紹介します。
目次
サンドボックスとは
サンドボックスとは、日本語で「砂場」を意味する単語です。システム開発やセキュリティ対策の分野で用いられる「サンドボックス」とう技術は、アプリケーションやプロセスを隔離し、ほかのシステムやリソースから分離する仕組みのことを指します。
たとえば、あるアプリケーションに悪意のあるプログラムが仕込まれていた場合、そのままハードウェアにインストールしてしまうとマルウェアへ感染してしまうおそれがあります。
しかし、サンドボックスが採用されていれば、アプリケーションが隔離された特定の領域内で動作するため、ほかのアプリやシステムに影響を及ぼすリスクを最小限に抑えることができます。
サンドボックスはPCやタブレット端末はもちろんのこと、iPhoneをはじめとしたスマートフォンにも採用されており、セキュリティ対策を向上させるための有効な手法として注目されています。
マルウェアとは、英語の「Malicious」(マリシャス)悪意のある、という意味の言葉に、「Software」(ソフトウェア)の2つの単語からできた造語です。その名の通り「悪意のあるソフトウェア」という意味です。代表的なマルウェアはウイルス、ワーム、トロイの木馬、スパイウェアなどがあります。その種類は年を追うごと増えています。
サンドボックス化によって可能なiPhoneの制限や制御
サンドボックスの仕組みによって、iPhoneでは具体的にどのような制御が行われているのでしょうか。3つのポイントに分けて分かりやすく解説します。
ファイル・ディレクトリへのアクセス制限
iPhoneにはさまざまなアプリケーションがインストールされますが、そのアプリケーションごとにサンドボックスが設けられています。
それぞれのサンドボックスでは、アプリケーションがアクセスできるファイルやディレクトリが制限されています。そのため、基本的に他のアプリがもっているファイルやディレクトリ、データにアクセスすることはできず、各アプリケーションが自身で所有する領域内でのみファイルの読み書きが可能です。
デバイスリソースへのアクセス制限
iPhoneではサンドボックス化によって、特定のアプリケーションがデバイスのリソースや機能にアクセスすることを制限しています。デバイスのリソースや機能とは、具体的にはカメラやマイク、位置情報などが挙げられ、これらにアクセスする際にはポップアップによる表示が出てきます。
iPhoneを使用しているときに、「○○がカメラへのアクセスを求めています」といった表示を目にしたことはないでしょうか。これはまさにサンドボックス化によってデバイスリソースへのアクセス制限が行われている証拠であり、不正利用や盗聴などのリスクが軽減しているのです。
アプリケーション間通信の制御
サンドボックスはアプリケーション間での通信も制御しています。ひとつ目のポイントで、異なるアプリケーション間でファイルやディレクトリへのアクセスが制限されていることを紹介しました。これと同様に、特定のアプリケーションが他のアプリケーションを制御したり、データを共有したりする行為も制限しています。
アプリケーション間通信を制御することで、たとえば悪意のあるプログラムによって勝手に特定のアプリケーションが起動したり、ユーザーの知らない間にバックグラウンドで動作したりといったリスクを防ぎます。
- アプリがアクセスできるファイルやディレクトリを制限
- アプリがカメラなどのデバイス、リソースなどにアクセスすることを制限
- アプリが他のアプリをコントロールしたりデータを共有することを制御
iPhoneにとってサンドボックス化が重要な理由
なぜiPhoneにはサンドボックスが採用されているのでしょうか。その理由を3つのポイントに分けて解説します。
個人情報やデータの保護
さまざまなアプリケーションをインストールし利用することの多いiPhoneでは、ユーザーの個人情報やデータがほかのアプリケーションに漏洩するリスクがあります。
たとえば、銀行系アプリやクレジットカードのアプリを利用している場合、これらの口座情報やクレジットカード番号が特定のアプリを通して外部に漏洩し、詐欺に利用される可能性もあるでしょう。
そこで、iPhone上で動作するアプリケーションは、それぞれ独自のサンドボックス内で実行されるようになっています。これにより、アプリケーション間でのデータの共有や操作が制限され、ユーザーのプライバシーやデータの機密性が守られます。
システムの安定性を確保するため
iPhoneはPCやほかのスマートフォンと比べても動作が安定しており、システムがフリーズしたり動作が遅くなったりすることが少ない特徴があります。
これはチップやメモリなどのハードウェアが進化していることもひとつの要因としてありますが、それ以外にもサンドボックス化が貢献している事実もあります。アプリケーションごとにサンドボックスを設けることにより、アプリケーション同士の相互干渉を防止し、システム全体の安定性を確保しているのです。
また、上記でも紹介したとおり、iPhone本体のファイルシステムへのアクセスやネットワーク機能の利用、カメラやマイクといったデバイスリソースの制御などがサンドボックスによって管理されています。
たとえば、アプリケーションが不正なリソースを使用したり、必要以上にリソースの消費を行うことも防止されます。サンドボックス化によるリソース管理は、システム全体のパフォーマンスと安定性の向上にも貢献しているのです。
危険性のあるアプリケーションの制限
iPhoneのアプリを公開するためにはApp Storeにおける審査プロセスを経る必要があり、厳格な審査に合格して初めて販売することができます。
これから公開しようとするアプリに不審な動きをするプログラムが組み込まれていないか、ユーザーに不利益を与えるプログラムが含まれていないかをAppleが審査することで、マルウェアなどの感染を防いでいます。
これと合わせて、サンドボックス化も悪意のあるアプリケーションの流入防止に貢献しています。アプリケーションはそれぞれのサンドボックス内で制限された操作しか行えず、物理的にシステムやほかのアプリケーションに悪影響を及ぼすことができません。
iPhoneがマルウェアに感染するリスク
Appleによる厳格な審査とサンドボックス化によって、iPhoneは強固なセキュリティ対策が施されており、通常であればマルウェア(コンピュータウイルスや不正プログラムなど)に感染するリスクは低いでしょう。
しかし、このような対策が施されていても、iPhoneがマルウェアに感染するリスクはゼロではありません。どのようなケースが想定されるのか、2つのパターンを紹介しましょう。
脱獄(Jailbreak)した場合
脱獄とは、特定の権限が設定された端末に対し、その権限を非正規な方法で取り払う行為をいいます。iPhoneの場合、App Storeで公開されていないアプリケーションは基本的にインストールすることができません。
PCやAndroidスマートフォンのようにサードパーティ製のアプリケーションは、一般ユーザーは利用することができない仕様となっているのです。しかし、脱獄をするとこのような制限が取り払われ、iPhoneの自由度が一気に拡大します。これは一見すると魅力的なこととして捉えられがちですが、セキュリティリスクが大幅に増大することも意味しています。一般のユーザーが特定のアプリケーションに対し、安全か危険かを判断することは難しく、知らない間にマルウェアに感染する確率が高いのです。
Appleでも脱獄行為は厳しく禁止する方針を打ち出しており、万が一脱獄をしてしまうとメーカー保証が受けられなくなるなどデメリットのほうが大きい行為です。
構成プロファイルにマルウェアが含まれている場合
企業や学校によっては、iPhoneに特別な設定や自社専用のアプリケーションをインストールして活用したいという声も多くありました。そこで、Appleでは2010年頃から「構成プロファイル」のインストールおよび利用に対応しはじめました。これにより、App Storeで公開されていない特殊なアプリケーションや本体の設定などをiPhoneで簡単に利用できるようになったのです。
しかし、構成プロファイルを悪用しマルウェアに感染させるという事例も発生しています。たとえば、SMSやメールなどに添付されたリンクへアクセスしたとき、構成プロファイルのインストール画面に遷移し「インストール」をタップしたことでマルウェアに感染するというケースです。
iPhoneへ構成プロファイルをインストールする際には、必ず「プロファイル」というポップアップが表示され、インストールするかキャンセルするかの選択肢が出てきます。不審なメールが届いた場合にはリンク先のURLへアクセスしないことはもちろんですが、もし構成プロファイルのインストール画面に遷移したとしても、慌てずに「キャンセル」を選択しましょう。
iPhoneで日頃から心がけたいセキュリティ対策の基本
Appleでは誰もが安全にインターネットを利用できるよう、サンドボックス化をはじめとしたさまざまなセキュリティ対策を講じています。しかし、ユーザー自身がセキュリティの意識が低ければ、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もあります。日頃から心がけたいセキュリティ対策の基本を3つ紹介しましょう。
iOSはつねに最新の状態を保つ
iPhoneはセキュリティ対策ソフトのインストールは不要ですが、つねに最新のiOSを利用しておくことが大切です。
Appleではセキュリティホールが発見された場合、迅速にセキュリティアップデートを行っており、1ヶ月から数ヶ月程度の頻度で新バージョンが公開されています。更新が面倒だからといって後回しにしていると、セキュリティホールを突いたサイバー攻撃の被害にあうリスクが高まります。そのため、新バージョンが公開されたらすぐにiOSをアップデートする癖をつけておきましょう。
ID・パスワードの使いまわしはしない
サブスクリプションサービスやWebサービスなどの多様化によって、サービスやサイトごとにアカウントを登録している方も多いでしょう。しかし、自分自身でもどのサイトにどのID・パスワードで登録したかを忘れてしまうことも多く、同じものを使いまわしているケースが少なくありません。
他人から推測されにくいパスワードであったとしても、あるサービスやサイトからアカウント情報が漏洩した場合、それと同じパスワードを設定している複数のサイトへ不正アクセスの被害が広がっていく可能性があります。そのため、IDやパスワードの使いまわしはせず、iCloudキーチェーンを利用するなど安全な方法に切り替えましょう。
フリーWi-Fiでは機密情報をやり取りしない
データ通信用量が減り、通信速度制限に悩む方にとってフリーWi-Fiは便利な存在です。しかし、フリーWi-Fiはその名の通りパスワードを入力することなく誰でもアクセスできるため、第三者によって通信内容が傍受される可能性があります。
ニュースや天気予報、一般的なWebサイトの閲覧などであれば問題ありませんが、ID・パスワードなどのログイン情報を入力したり、個人情報やクレジットカード番号、口座情報などを入力する場合には、それらが外部に漏洩されるリスクもあるため注意が必要です。
- iOSはつねに最新の状態を保つ
- ID・パスワードの使いまわしはしない
- フリーWi-Fiで個人情報、機密情報をやり取りしない
サンドボックス化がされていても油断は禁物
今回紹介してきた通り、iPhoneにはサンドボックスという技術が採用されており、マルウェアや不正なプログラムなどによる被害を未然に防ぐ措置が講じされています。また、サンドボックス化はiPhoneのリソースを効率的に制御し、フリーズやクラッシュなどを防ぐ役割も果たしています。
ただし、サンドボックス化がされていても、それだけで万全なセキュリティ対策であると断言することはできず、脱獄のようなAppleが推奨していない使い方をすると一気にリスクは高まります。さらに、ユーザー自身がセキュリティ対策の意識が低いと、ログイン情報や個人情報の漏洩を招くこともあるでしょう。
iPhoneのセキュリティ対策は信頼性が高いですが、それに油断するのではなく、つねに最新のOSへアップデートしておくなど基本的な対策は忘れないようにしましょう。